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「まったく、こんな時間にバスに乗るなんてな……」

夜も深まる頃、静けさが支配するバス停に一人の少年が佇んでいた。彼の名はリュウジ。日々の忙しさから解放されるために、まれにこうして夜行バスに乗って遠出を楽しむのが習慣だった。

リュウジは控え目で目立ちたがりではない。しかし、彼の心の内には誰にも打ち明けられない思いが秘められていた。それは誰かと共有したいという切なる願いだ。だが、その願いは控え目な性格に阻まれ、自分だけのものとして閉じ込められていた。

「おかしなやつだな、俺は」

リュウジはふとつぶやき、バス停のベンチに腰を下ろした。目の前には一台のバスが止まっている。そのバスは昔からのボロボロの外観が特徴で、夜になると全く乗客がいないことが多かった。今日はそのバスに乗るつもりでいた。

「さて、乗るか」

バスのドアが開き、運転手が控え目に挨拶をしてくれる。リュウジも控えめに頭を下げ、料金箱にお金を入れた。もちろん、バスの中はリュウジ一人だけ。自分だけの空間に安心感を覚える。

「どこまでも行ける気がするな」

リュウジは窓際の席に座り、外の景色を眺める。この夜の旅には特別な意味があるわけではない。ただ、自分の心を開放するための一人旅だ。それはリュウジにとって必要な時間だった。

バスはゆっくりと走り出した。車内の静けさと外の暗闇が調和して、時間の感覚すら曖昧にする。リュウジはその静寂に身を任せ、どこに行くとも知れない道を進んでいった。

「なんだか、全部が夢みたいだな……」

リュウジはふと、過去の記憶を思い出す。高校時代、友人との楽しい日々や初恋の甘酸っぱい思い出。だが、その中で自分だけが控え目で、言いたいことを言えずにいた自分がいた。

「けど、今は違う」

リュウジは決心した。もう過去には戻らない。これからは自分をもっと大事にし、自分の気持ちを大切に生きていく。バスの窓から見る街灯の光が、そんな彼の心を静かに照らしていた。

バスが古びた橋を渡ると、遠くに夜景が広がった。リュウジの心もその夜景のように澄んでいく。自分だけの空間で、控え目な自分と向き合うことで、本当の自分に気づけた気がする。

バスはどこまでも走り続ける。その旅の終わりがどこにあるのかはわからないが、リュウジはそれを楽しみにしていた。自分を見つめ直すための旅、そして新しい自分を見つけるための旅。このバスの中で何かが変わる予感がする。

「次の停留所で降りるか……」

リュウジはそうつぶやき、窓の外に目を向けた。次の停留所がどんな場所なのかは知らないが、そこには何か新しい発見が待っているに違いない。

バスが次の停留所に到着したとき、リュウジは静かに立ち上がった。自分だけの時間は終わりを迎え、新たな一歩が始まる。控え目でありながら、自分の気持ちを大切にするための旅が再び始まった。

「ありがとう、バス。また会おう」

そう言い残してリュウジはバスを降り、新しい世界へと踏み出した。その一歩は小さくても、大きな勇気を持って進むことができたのだった。